建築雑感

2005年8月21日

イタリア-4:街の色

フィレンツェ鳥瞰     シエナ鳥瞰

フィレンツェとシエナは近くに立地していますが、歩いていると街の空気がかなり違います。同じような天気でもシエナには、フィレンツェよりも湿ったような陰を感じる空気があって、それが独特の居心地の良さを生んでいるように感じます。

歩いているときには、それが街路の構成などによる形態から来る感覚だと思っていましたが、帰国後にそれぞれの街の塔の上から撮った写真を眺めていて気づきました。アイレベルでは似たような印象であっても全体としての『壁の色』が違います。同じような細い街路であっても白い壁面に囲まれたフィレンツェの街ではそもそも下まで到達する光の量が多いのでしょう。建物の色彩はそれを見たときの印象とは別に光の環境にも強く影響します。それにしても隣町でこの違い、きっとそこで育った人間の気質にも影響したでしょう。いまさらのようにイタリアが都市国家の集合体であることを感じます。

2005年8月19日

イタリア-3:二つの駅舎

ミラノ駅ミラノからフィレンツェへ列車で移動しましたが、この二つの駅舎はとても対照的です。

ミラノ中央駅のプラットホーム空間(右)は良く知られた鉄とガラスが謳歌する大空間で文句無しの迫力があります。そして街に向いたファサードはうってかわった巨大な石造建築。それらに通じるものは見るものを圧倒しつつ高揚感を高めようとする意図でしょう。それに対してフィレンツェ駅舎(下)は今見れば控えめな、大地にはりつくように水平に展開したモダニズム建築。記憶によれば設計競技によってこれを設計したのは地元の建築家グループで、歴史的街並の中にあってのモダニズムのデザインが賛否両論を巻き起こしたとのこと。

フィレンツェ駅そして今、人々の動きを見てみるに、ミラノに於いては長距離列車を飲み込んだ大空間の中でこれからの旅路に夢はせる顔の人々の群れが、フィレンツェに於いては駅舎の周囲の芝生で自らの行動を思案するバックパッカーたちとともに、三々五々自然に集まり居るこの街の人達がその場の主役のようでした。

この違いは駅舎というものの二面性を表すものかもしれません。それは「旅立ちの高揚感」と「帰巣の安堵感」とでも言えるものでしょうか。少なくとも私にとってのフィレンツェ駅舎の印象はとても良いものでした。

2005年8月18日

イタリア-2:RCトラスの橋

RCトラス橋ミラノ Naviglio地区の運河沿いを散歩していて見つけた鉄筋コンクリート造のトラス橋。無骨なプロポーションでありながら斜材の角度と太さを連続的に変化させているあたりがニクい。この時は運河の工事の為か水がありませんでしたが、太鼓橋になっているのは船舶の航行のためでしょう。

RCトラスの橋と言うとパリ東駅の跨線橋(1927)が有名なようですが、細骨材の風化の具合から言ってそれよりも古いかと思われます。しかし形状から言って力学的にはトラス橋というよりはアーチ橋でしょうか。その苔むしたテクスチュアに、もはやトラスの軽快さからはほど遠い重量感を見せている姿は、もしかするとデザイナーの意図したものかもしれません。こういうものを見ると、遥か昔にこれを造った人たちの顔が見たくなります。